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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和33年(わ)203号 判決

被告人 篠崎敏高 外一四名

主文

被告人A、同Bを各懲役参年以上五年以下に、被告人C、同D、同Eを各懲役弐年以上四年以下に、

被告人F、同G、同高橋憲一を各懲役参年に、

被告人H、同I、同J、同Kを各懲役弐年六月に、

被告人Lを懲役弐年に、

被告人Mを懲役壱年六月に、

処する。

未決勾留日数中被告人Aに対し六拾日を、被告人Bに対し八拾日を、被告人C、同D、同Eに対し各参拾日をそれぞれその本刑に算入する。

被告人F、同G、同高橋憲一、同H、同I、同J、同K、同L、同Mに対してはいずれもこの裁判確定の日から参年間右各本刑の執行を猶予する。

被告人F、同Gを右執行猶予期間中保護観察に付する。

訴訟費用中証人a、同b、同山本三喜に支給した分は被告人A、同B、同C、同D、同E、同G、同高橋憲一、同I、同J、同Kの、証人dに支給した分は被告人A、同B、同C、同D、同G、同H、同Lの、証人eに支給した分は被告人A、同B、同C、同E、同H、同高橋憲一の、証人fに支給した分は被告人A、同B、同C、同D、同E、同Mの各連帯負担とし、証人gに支給した分は被告人Fの負担とし、証人hに支給した分は被告人B、同Fの、弁護人井上春吉に支給した分は被告人H、同Jの、弁護人岩成自助に支給した分は被告人E、同Kの、弁護人田中露越に支給した分のうち金七百円は被告人B、同Fの、その余の同弁護人に支給した分は被告人B、同F、同Mの各連帯負担とし、証人中原獅郎、同iに支給した分は被告人Fの、弁護人徳永竹夫に支給した分は被告人Mの、弁護人石田市郎に支給した分は被告人Aの、負担とする。

被告人篠崎敏高は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人B、同Fは和田年美、羽毛豊茂外二名と昭和三十三年三月三十日午後九時過頃、福岡県鞍手郡宮田町東映々画劇場において映画を観覧していた際、同劇場に来ていたh(当十五年)を見かけるや、同女を強姦することを共謀の上、被告人Bにおいてhが同被告人に好意を寄せていることをよいことにして同女を誘い出し、右劇場から約三百五十米離れた同町宮田橋右岸下流約二百四十米の堤防上につれ込み、被告人F外四名があとをつけてその場に来たが、同日午後十時頃同所において、和田年美が同女をその場に仰向けに押倒し、被告人Bがそのズロースを下げ、羽毛豊茂がその足を押えた上、和田年美が同女に馬乗りになつて強姦せんとしたるも、同女が泣きながら救けを求めたので、その声を聴きつけた他人に発見され、逃走したため姦淫の目的を遂げず、

第二、被告人A、同B、同Gは同年四月二十九日同町宮田中学校に運動会を観に行つた際、同日午後零時三十分頃同校正門において、被告人Bの顔見知りの間柄であるd(当十六年)を見かけるや、同女を強姦することを共謀の上、話しがあると言つて右被告人三名でdを同校裏の山中に誘い込んだところ、被告人C、同D、同H、同L外三名が右の企てを知つてそのあとを追つて来て、被告人A等と共にdを強姦することの意を通じ、同日午後一時三十分頃同所において、被告人A、同H外一名が同女をその場に押倒して押えつけ、その反抗を抑圧した上、右被告人七名が順次同女を姦淫し、

第三、被告人A、同B、同C、同E、同H、同高橋憲一は同年五月中旬頃の午後八時三十分頃、同町大字長井鶴光ビンゴ店前路上で雑談をしていた際、折柄同所に通りかかつたjことe(当十六年)が被告人高橋憲一の自転車を見て、自転車に乗る稽古をしたい旨言つたので、被告人Aが同女を自転車に乗せ、その荷台を持つて稽古をさせているうち、同女を強姦することを決意し、この旨他の被告人に打明けたので、ここに右被告人六名は互に同女を強姦する旨の意を通じ、被告人Aにおいてeを自転車に乗せて同所から約二百米離れた同町繰船橋右岸上流約五十米の堤防上につれ込み、他の被告人五名もあとを追つてその場に来たが、eが被告人等の企図を察知し、握られている被告人Aの手を振り切つて逃げ出すや、被告人等はこれを追いかけて繰船橋右岸下流約五十米の堤防上で同女を掴まえ、同日午後九時頃同所において、被告人E、同Hが同女をその場に押倒し、モンペを引下げ、被告人Cが同女に馬乗りになつて強いて姦淫せんとしたるも、同女が大声を出して救いを求めながら抵抗したためその目的を遂げず、

第四、被告人A、同B、同C、同D、同Mは鶴野雪松と同月二十八日午後九時三十分頃、同町大字長井鶴安部病院附近において、f(当十六年)を強姦しようと共謀の上、被告人Aが同女の知合であることをよいこととして、同女にナイトショウを観に行こうと言つてその自宅より誘出し、同日午後十時頃同町大生館につれてきたところ、他の被告人等も申合せにより同映画館にきたが、同映画館で映画を観ていた被告人Eも右の企てを知つて右被告人等と同女を強姦することの意を通じ、ナイトショウが終るや、被告人Aがfに対しその自宅に送つてやると言つて同道中、他の被告人五名等もそのあとをつけ、又は待伏せるなどして同日午後十一時五十分頃、同町大字所田犬鳴川堤防附近の道路上においてfに出会うや、被告人E、鶴野雪松が同女をその場に仰向けに押倒し、タオルでその口を塞ぎ、手足を押えつけるなどしてその反抗を抑圧した上、鶴野雪松において強いて同女を姦淫し、

第五、被告人Fは鶴野雪松外四名と同年六月十六日午後八時頃、同町大字羅漢中里元ローラスケート場において、g(当十六年)を強姦しようと共謀し、同日午後九時過頃同町大字長井鶴大之浦坑六坑一区の共同風呂場前において、被告人Fが顔見知りの間柄であるgに対し、朴英子(同女の友人)等が呼んでいる旨嘘を言つて、gを同町犬鳴川堤防下渡辺水洗場につれ込んだところ、鶴野雪松もあとをつけてその場に来たが、同日午後十時頃同所において被告人F、鶴野雪松が同女をその場に押倒してズロースを脱がせ、交々その上に乗りかかり、強いて姦淫せんとしたるも通行人が来たため、発見されることを恐れてその目的を遂げず、

第六、被告人Fは同年七月十五日午後五時頃、同町大字長井鶴羅漢天理教会分会においてi(当二十五年)を強姦しようと決意し、花井信雄と意を通じ、両名において同女をその両手を捕え、無理に右天理教会分会の拝殿廊下に抱上げ、抑えつけた上、被告人Fが同女に馬乗りになつて強いて姦淫せんとしたるも、iが大声で救けを求めたので、附近にいた島田茂雄がその場に馳けつけたため、逃走してその目的を遂げなかつたが、右暴行により同女に対し全治まで約一週間を要する右上腕、左胸部挫傷を負わしめ、

第七、被告人A、同B、同C、同D、同E、同G、同I、同J、同Kは同月二十一日午後十時過同町東映々画劇場において、映画を観ていた際、同劇場に来ていたb(当十四年)とそのつれのa(当十四年)を見かけるや、同女等を強姦しようと共謀し、被告人Aがbの知合いであるところから同女等に近づき映画が終るや被告人A、同Iが同女等にその自宅に送つてやると言つて同道中、他の被告人七名もそのあとを追い、被告人A等四名が鞍手郡若宮町大字原田清泉橋に差しかかるや、他の被告人七名も次々に追付きその場に来たが、被告人Aはb、aを離して別々に強姦しようと考え、この旨被告人Iに告げたので、同被告人はaを同所より約百米西方の西瓜番小屋附近の堤防上につれて行き、同女をその場に待たせるうち、被告人高橋憲一も来合せて右の企図を知つて同女等を強姦することの意を通じ、

(一)  同月二十二日午前一時頃右清泉橋附近堤防上において被告人I、同E、同Aがbをその場に押倒し、ズロースを下げ、手を押えてその反抗を抑圧した上、被告人I、同C、同D、同A、同高橋憲一、同K、同E、同Gが順次同女を姦淫し、更に被告人B、同Jが同女を同町大字原田字友池天満宮につれ込んでその反抗を抑圧した上、順次同女を姦淫し、

(二)  同時刻頃右西瓜小屋附近堤防上において、被告人A、同D、同G、同Kが、aをその場に押倒して抑えつけ、ズロースを下げて強いて同女を姦淫せんとしたるも、右西瓜小屋の番人に発見されて逃走したためその目的を遂げず

第八、被告人Bは和田建次外二名と共謀の上、同年四月六日午後七時三十分頃、同郡宮田町大字宮田タクシー車庫において、折柄通行中の小野昭義を見かけるや、同人を呼び入れ、小野昭義が曩に矢野秀夫の依頼によりズボンを質受けして同人から貰つたが、これは被告人Bの所有物であるのにその了解を得ていなかつたので同被告人に返す約束をしたのに、これを果さなかつたことに憤慨し、小野昭義に対し「ズボンを返すと言つたのに何故持つて来なかつたか」と言つて手拳でその顔面を数回殴打し、よつて同人に対し全治まで約十日間を要する顔面挫傷を負わしめ、

たものである。

尚被告人A、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同J、同K、同L、同Mは少年である。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

判示第一、第三、第五、第七の(二)の各強姦未遂につき

各刑法第百七十九条、第百七十七条前段、第六十条

判示第二、第四、第七の(一)の各強姦につき

各同法第百七十七条前段、第六十条

判示第六の強姦致傷につき

同法第百八十一条、第百七十九条、第百七十七条前段、第六十条(有期懲役刑を選択)

判示第八の傷害につき

同法第二百四条、第六十条、罰金等臨時措置法第二条、第三条第一項第一号(懲役刑を選択)

被告人A、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同H、同高橋憲一、同I、同J、同Kに対する併合罪の加重につき

各刑法第四十五条前段、第四十七条、第十条、第十四条(被告人B、同G、同Hについては判示第二の罪の刑被告人Fについては判示第五の罪の刑、その他の被告人については判示第七の(一)の罪の刑につき加重)

被告人Mに対する酌量減軽につき

同法第六十六条、第七十一条、第六十八条第三号

被告人A、同B、同C、同D、同Eに対する不定期刑につき

各少年法第五十二条第一項、第二項

被告人A、同B、同C、同D、同Eに対する未決勾留日数の本刑算入につき

各刑法第二十一条

被告人F、同G、同高橋憲一、同H、同I、同J、同K、同L、同Mに対する刑の執行猶予につき

各同法第二十五条第一項第一号

被告人F、同Gに対する保護観察につき

各同法第二十五条の二第一項前段

訴訟費用の連帯負担につき

各刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条

訴訟費用の単独負担につき

各同法第百八十一条第一項本文

(被告人篠崎敏高に対する無罪の理由)

昭和三十三年七月三十日付検察官福田巻雄起訴に係る公訴事実は「被告人篠崎敏高は花井信雄及びFとiを強姦せんことを共謀の上、昭和三十三年七月十五日午後五時頃鞍手郡宮田町大字長井鶴羅漢天理教会前において同女を呼止め、同教会につれ込み花井信雄、F両名が抵抗する同女の両手を捕え、無理に拝殿の廊下に抱上げ抑えつける等の暴行を加えたるも他人に発見されて姦淫の目的を遂げなかつたが、右暴行により全治まで約一週間を要する右上腕、左胸部挫傷を与えたものである」というにある。

よつて考えるに、当裁判所の証人i、同中原獅郎に対する各尋問調書、iの検察官に対する供述調書、花山信雄の司法巡査に対する供述調書、被告人篠崎敏高の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書及び医師中原獅郎作成の診断書を綜合すると、昭和三十三年七月十五日午後五時頃被告人篠崎敏高はF及び花井信雄と福岡県鞍手郡宮田町大字長井鶴久場朝蔵方前を通行中、i(当二十五年)が通りかかるや、同女を呼止め一寸用があると言つて天理教会分会につれて行つたこと、その際F、花井信雄もついてきたこと、右天理教会分会において被告人篠崎敏高がiに対し曩に同女と会う約束をしていたのに同女が、その約束を果さなかつた理由を尋ね、更に今後交際をしてくれるよう申入れたが、iが結婚したことを理由にこれを拒絶するや、同被告人がその場を立ち去つたこと、その後Fと花井信雄がiを拝殿の廊下に抱上げ抑えつけて同女を姦淫せんとしたが、同女が救いを求めたため附近にいた島田茂雄がその場に馳けつけたので逃走してその目的を遂げなかつたことその際iが全治まで約一週間を要する右上腕左胸部挫傷を負つたことが認められる。

尤も、花井信雄の司法巡査に対する供述調書及びFの検察官に対する供述調書によるとiを前記天理教会分会に誘い込んだのち(右各供述調書によるとiを天理教会分会につれ込んだのはFである旨供述しているが、当裁判所の証人iに対する尋問調書によると同女を右教会に誘い込んだのは被告人篠崎敏高である旨供述しているところ後述する如く被告人篠崎敏高がiと懇意の間柄であつたことを併せ考えると後の供述が措信できる)被告人篠崎敏高がF及び花井信雄と同女を姦淫する旨共謀し、iの手を掴んで本殿内に引張り込まんとしたが、同女の抵抗を受けたためFと花井信雄に協力を求めた旨供述している。右供述及び当時の状況から綜合判断するに、被告人篠崎敏高等三名がiを強姦する旨共謀していたことを疑わしめるものがあるが、他面当裁判所の証人iに対する尋問調書及びiの検察官に対する供述調書によると被告人篠崎敏高はiに対しては暴行を加えていないこと、同女を本殿に引上げんとしてF等の協力を要請していないこと、F等が同女を強姦せんとしたのは被告人篠崎敏高が立去つたあとであることが認められ、同被告人が共謀に加わつた旨の供述はこれを裏付ける証拠がないことを併せ考えると、たやすく措信し得ない。

又被告人篠崎敏高の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書によると、被告人篠崎敏高等は久場朝蔵方前路上でiと立会い、同女を呼びとめたのち姦淫しようと共謀した旨供述しているが、同被告人等がiのいる面前でさような共謀をしたとは思われないし、右供述を裏付ける証拠もない。のみならず証人Fの当公判廷における供述によると被告人篠崎敏高はF等とiを強姦する旨共謀したことはないと供述しており、第一回公判調書中被告人篠崎敏高の供述記載部分によると、被告人篠崎敏高も当公判廷においては共謀の事実を否認している。

更に司法警察員下妻孝男作成の実況見分調書によるとiの帰途である天理教会前道路から同女が誘い込まれた地点までせいぜい二十米位に過ぎないこと、又その時刻が七月十五日の午後五時頃でまだ明るい時刻であつたこと及び前記被告人篠崎敏高とiの天理教会分会内における会話の内容から判断するに、同被告人がiを誘込んだのは同女を強姦するためでなく、曩に同女が被告人篠崎敏高と会う約束をしていたのに、同女がその約束を破つた理由を尋ねるためであつたとも考えられ得る余地が濃厚である。

果して然らば公訴事実中にある如く被告人篠崎敏高がF等とiを強姦することを共謀した旨の事実はこれを認める証拠が十分でない。

よつて右公訴事実は犯罪の証明がないものとし、刑事訴訟法第三百三十六条後段の規定により被告人篠崎敏高に対し無罪の言渡しをする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 桜木繁次 川淵幸雄 岡崎永年)

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